6月頭に、昨年から準備をしていたブラームスのピアノカルテット第1番の演奏会を行いました。日本フィルハーモニー交響楽団の元コンサートマスターの大川内弘さんがまさかのご近所さん!と言うことで、2年前に結成したピアノカルテットです。弘さんに声をかけていただき、2年前にはシューマンのピアノカルテットをホームコンサートで演奏し、いらしていただいたお客様にも大変喜んでいただけました。
もう一度コンサートを開催したいと、昨年からリハーサルをしていました。今年はブラームスのピアノカルテット第1番を選曲してくださり、ブラームスは私から最も遠い作曲家、、嫌な思い出があるわけではありませんが、重厚なドイツものに食わず嫌いでいました。弘さんもヴィオラの姫代さんも大のブラームス好きで、素晴らしい曲だと聞き、向き合ってみようと必死に練習をしました。私は練習をしていく上で、特に1楽章のテーマとして多用される旋律の美しさがとても心に響き、ソナタ形式によってどんどん発展していく様がとても好きになりました。この折り重なる複雑さが美しく、またバッハやベートーヴェンとは違います。この複雑さ=重厚さとばかり思っていたので、美しさを見つけることができず、今まで敬遠していたのだなと思いました。でも弦楽器と演奏することで、複雑なハーモニーが違う楽器、演奏者が奏でることによってよく聴き、合わせていい音楽にしようと試行錯誤することで、室内楽が出来上がっていくのだと思いました。
私は学生時代、室内楽の授業は優秀と言うにはほど遠かったと思います。なぜならピアノソロで精一杯で、室内楽の授業は単位を取るのに必死。そんなわけで、当時は室内楽の素晴らしさに気づくことができませんでした。弘さんはさすがコンサートマスターだけあって、自らも演奏しながら的確にアドバイスをくださり、優しく穏やかに、メンバーの個性を活かしながら曲をまとめてくださいました。私も弦楽器を聴きながら演奏することで、ピアノの音色が変化したことに自分でも驚いたくらい、とても勉強になりました。もっと学生時代に室内楽を勉強しておけば良かった、と2年前に思ったことを覚えています。
しかし、本番前のリハーサルも終えた3月、弘さんが倒れたと連絡がありました。現役バリバリで演奏もしていたし、スポーツもして、食も私よりも食べるくらいお元気だったのに、、いきなりの事に誰もが驚いたと思います。姫代さんの一声で、弘さんの代役で1stヴァイオリンを演奏してくださる方を探してくださり、弘さんの意識が戻らぬまま本番を迎えました。新しいメンバーでリハーサル回数も少ないまま、ゲネプロまで焦っていたのですが、本番はとてもいい演奏ができました。弘さんのお顔と音色も思い浮かべながら、私たちの演奏ができたと思います。お客様も今までで一番多くお越しいただき、ブラームスが好きになりました、とおっしゃっていたけて大変嬉しかったです。
そして7月2日朝、弘さんが旅立ったと連絡があり、重かった気持ちがハッとほどけた感覚でした。倒れてから約3ヶ月、どんな思いで姫代さんが付き添い、仲間たちの寂しい気持ちを想像すると居た堪れませんでした。ブラームスの本番の日まで弘さんは頑張ってくれて、指導してくれて、同じ世界で演奏を聴いてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです。優しい声で「ゆかりさん、大人の演奏になったね。上手になったね。でも僕より下手だけどね」と冗談まじりでお話ししてくれている感じがします。
穏やかでユーモアのある、小粋な弘さん。友達と呼ぶには恐れ多く立派なお方でしたが、お友達になってくれてありがとう。弘さんからご指導をいただいたこと、忘れません。安らかにお休みください。