夏から秋にかけては、全国的にピアノコンクールが盛んに開催される季節です。当教室からもコンクールに挑戦したいという生徒さんが多く、皆さん意欲的にピアノを楽しんでくださっており、指導者としてとても嬉しく思っています。
今回は、Mちゃんの挑戦についてお話しさせていただきます。Mちゃんは2年前から様々なコンクールに挑戦していて、各コンクールで素晴らしい賞をいただいたこともありますが、悔しい思いをすることもありました。日々のレッスンの中で、モチベーションをどのように保つか悩むことも多く、今回は日本で最も規模の大きいピアノコンクールである「ピティナ・ピアノコンペティション」への挑戦を勧めてみました。ただ、たくさんのコンクールや演奏経験のあるMちゃんには、今回は出場するかどうか自分で決めてもらいました。ピティナコンペティションは、私が無理に勧めてしまっても気持ちが乗らなければ、課題曲の多い練習は非常に大変で、心身ともに負担が大きいと思ったからです。その結果、お母様と相談のうえ、他のコンクールも検討していた中で「ピティナコンペティションに挑戦します」と決意してくれました。合格率は約3割、課題曲は4曲と、これまで以上にハイレベルな内容であることを理解した上での挑戦でした。Mちゃんの気持ちを尊重し、Mちゃんがベストを尽くせるよう、私も全力でサポートしようと心に決めました。
こうしてMちゃんの初めてのピティナコンペティションへの挑戦が始まりました。このコンペティションは、私自身も子供の頃に挑戦していたものですので、生徒が同じ舞台に立ってくれることに感慨深さを感じます。まず何よりも、限られた期間の中で4曲の課題曲を仕上げなければなりませんでした。選曲にはあまり時間をかけず、Mちゃんの持ち味である表現力が活きる曲、そしてチャレンジングなかっこいい曲など4曲を選びました。課題曲の多さにお母様も不安を感じていましたが、譜読みはご自宅でも頑張ってくださり、徐々に4曲とも形になっていきました。譜読みは最も大変でストレスもたまりやすいところですが、親子で協力して乗り越え、レッスン時間をより高度な指導の時間に充てられるようになったことも、大きな成長だと感じました。
コンクールが近づくにつれ気になったのは、Mちゃんの弱点である「ノーミス演奏」です。多少のミスは問題ありませんが、どうしてもミスをすると弾き直す癖が抜けきりません。ここを克服してほしいと思い、ご家庭でも「ミスしても弾き直さずにそのまま演奏を続ける練習」を行っていただき、レッスンやリハーサル、本番を想定した緊張感のある場面でも、弾き直さずに演奏できることを目標に取り組んできました。コンペティションでは、同じく努力している多くの子供たちが集まるので、できるだけミスは減らしたいところです。Mちゃんは表現力があり、音楽を聴いて曲のイメージをふくらませたり、リズムに合わせてダンスをしたり、音色のセンスも抜群なので、自信を持ってコンペティションに臨める実力があります。弾き直す癖も、主にメンタルの問題だと思いますので、自分の音楽の世界を止めずに演奏しきることが課題でした。
いよいよ迎えた予選。約1,000人収容の塩尻レザンホールの大ホールでフルコンのスタインウェイを弾くという大舞台。私は同行できませんでしたが、会場スタッフの皆さんがとても親切にしてくださり、Mちゃんも少しは緊張が和らいだようです。それでも手が震えたとのことでしたが、「響きを感じて演奏できた」との感想に、緊張しながらも音に意識を向けられている点に成長を感じました。結果は、見事予選通過!3割しか通過できない中で突破し、さらにカワイ賞という特別賞までいただきました。講評でも「音色や表現、センス」を多く褒めていただき、Mちゃんの得意な部分が高く評価されたことを嬉しく思いました。おめでとうの気持ちを味わいつつ、すぐに本選へ向けて準備を始めました。
本選では、難易度の高いバロック作品と、挑戦曲として選んだかっこいい曲を演奏しました。粒の揃った音とパリッとした音色、特徴的なリズムが求められ、何度も練習やレッスンに苦戦しましたが、本番直前まであきらめずに取り組み、最後のレッスンでは曲の完成度も非常に高く、ノーミスで演奏することができました。できた時のMちゃんはとても嬉しそうで、大きな自信につながったと思います。
迎えた本選は、もちろん予選よりも厳しい場ですが、約半年かけて取り組んできた自分のベストを出し切ることが目標です。せっかくの本選、今回は私も同行でき、リハーサルでも良い演奏ができたことで、Mちゃんもハイテンションに。本番は落ち着いて良い表現ができたものの、課題だった「弾き直し」をしてしまいました。しかし、最後まであきらめずに弾ききりました。音色も美しく、テンポ感やまとめ方も良かっただけに、弾き直しは本当に惜しかったです。でも、ここを乗り越えられれば、もっとレベルアップできると感じました。他の出演者の多くがミスなく弾き通す中で、Mちゃんは悔しい思いをしましたが、どれだけ良い表現をしても、コンクールでは「ノーミス」も大切な要素であるということを改めて実感したと思います。
今回の挑戦では本選で入賞することはできませんでしたが、コンクールの後こそ、心身ともに成長できる大切なタイミングです。今回味わった悔しさを力に変えて、「お友達の演奏を聴いてどう思ったか」「自分の課題は何か」「そのために今後どんな努力が必要か」などを考えることで、必ずレベルアップしていくはずです。悔しさで落ち込む様子もみられましたが、「来年もピティナコンペティションに出る!」と新たな意欲を見せてくれました。Mちゃんはまだまだ成長すると思います。
私としては、このビッグチャレンジに合格点、あきらめなかったことに100点、そして次への意欲に満点をあげたいです。いつも近くで支えてくださり、研究熱心なお母様とともに、本当によく頑張ったMちゃん。かっこいい姿を見せてくれて、本当にありがとうございました。